2026年9月4日金曜日

20260904 宮城県・気仙沼の漁業者による森づくりを視察。自然環境再生・利活用に対する考え方や取り組みが深まりました

 9月1日(火)から3日(水)まで、宮城県・気仙沼に行き、NPO法人森は海の恋人の畠山理事長、萩原さんにお会いし、漁業者による森づくりの現場を視察させて頂きました。やはりWebサイトや書籍で情報を得るだけではなく、実際に関係者にお会いし、現場を歩いてこの目で見ることで、自然環境再生・利活用に対する多様な考え方や取り組みの様子の理解が深まりました。


【上記2枚は山田さん撮影】

【NPO法人森は海の恋人がある舞根湾の穏やかな風景】

今回の視察には、神戸市漁業協同組合の山田組合長夫妻をはじめ若手の漁業者、兵庫県漁業協同組合連合会と神戸市の幹部職員もご案内しました。神戸市漁協では、組合長が故畠山重篤さんの著書「森は海の恋人」を手に取ったのをきっかけに漁師さんや神戸市職員もメンバーに加わって、須磨区の荒れ果てた山林の再生に着手しています。兵庫県漁連さんは10年ほど前から独自に傘下の漁連やコープこうべさんなどの企業団体と組んで、神戸市西区で漁業者による森づくりに取り組んでおられます。

2日(水)は、朝宿泊した気仙沼のホテルを発ち、気仙沼湾から山一つ越えた唐桑半島の根元近くにあるNPOの事務所を訪ねました。太平洋に面した三陸海岸にある閉鎖水域で、鏡のように穏やかな水面が拡がる漁村です。しかし、周囲に目をやると住宅はなく、高台に新しい家が建ち並び、三陸沖大地震の影響を感じさせられます。

事務所では、事前にお送りしたアジェンダに沿って、我々訪問者のプロフィールをご説明し、NPOの取り組みや漁業を取り巻く環境について、質疑応答を行いました。その要点は以下のとおりです。

【事業の方針】

・農林水産業と環境のマッチングを考えて取り組んでおり、森づくり事業に税金を当てにしていない(行政が主体的には絡んでいない)
・事業の柱は①環境教育 ②森づくり ③環境保全で、その真ん中に④人作りがある
・生物多様性の確保と生産性のバランスを考えて取り組んでいる。漁業者の生産性だけを考えると本来NPOがいない方がハッピー
・NPO法人の活動メンバーは本業が漁業者であるため、環境保全団体にありがちな偏った視点、視野に捕われていない
・(全国的にも有名な)「植樹祭」は、多い年で1,500人、近年は800名ほどの参加者がある。イベント化しているが、それがきっかけで活動地域周辺で減農薬の農業が促進されてブランド価値が上がったり、環境保全に目覚める住民が増えるなどの副次的効果があると認識している

【NPOの組織体制】

・常勤者は理事長と現場責任者の2名
・プロジェクトに対応して動く外部スタッフが10名ほどで、本業は漁業者であり林業者
・周りには、プロジェクトを研究のフィールドとする大学の関係者が多数いる。森里海が連携した研究体制になっている
・スタッフは、過去の植樹祭などのイベントをきっかけに加わった方もいる

【森づくりのフィールドの選定と進め方】

・フィールドは、2級河川でもない小河川の集水域を選んでいる。基本的に公地だが一部民間から貸し出しも受けている
・まず環境調査を行い、生物相、水質等の環境のマッピングを行い、活動の進め方を検討する
・森は基本的に「不抜の森」を目指している。ただし、植樹後のモニタリングは必要。刈り取った樹木、雑草の搬出も行わない
・作業は人力にこだわっている(重機は使用しない)。ただし、危険伐採は林業者の協力を得ている
・フィールドの作業では、下見、安全管理が大切なのはもちろんだが、スタッフ自身も「何が安全か気付いて動く」感性が必要であり、そのようなメンバーでないと残れない
・森づくりにあたっては、常に人目線だけではなく虫や鳥、魚の目線を持ち続けることが大切
・大学が、流域の森や河川、河口付近の汽水域の沼などにフィールドカメラや温度、CO2濃度のセンサーを取り付け、定点観測を行っている。10年、20年とデータが積み上がることで、環境の特性や変化が見えてくると思う(残念なことに、三陸沖大地震の津波でそれまで長年蓄積していたデータや紙は、全て失われてしまった)
・(創立者の重篤さんの功績で)小中学校の国語、理科の教科書にNPOの取り組みが多数取り上げられており、NPOの事業が進めやすくなっているし、次世代を担う子どもの環境意識を高めるのに役立っている
・森の活動により、(環境変化は緩やかでも)確実に人の心が動いていることを実感

【森づくりの実際】

・植えている樹木は最大で約40種。土地の普通種を選び、繁殖力が強すぎる樹木は選ばない
・1平方メートル当たり4本が植える目安で、出来るだけ大きな苗木を植えて、手入れをしなくても自然に育つようにしている(順応的管理)
・森に対する考え方は林業者、環境保全団体、行政で様々であり「良い森とはなんぞや」と一概に定義するのは難しい
・活動のベース基地を設けて、寝泊りして作業が出来るようにしている。ただし、環境変化をなるべく起こさせないよう、人間の汚穢は全て持ち帰っている
・周辺などでは間伐も行っていて、刈り取った枝はチップ化している

【活動による自然環境や漁業の変化について】

・植林による海の富栄養化は、感じていない(気仙沼では栄養添加は行っていない)
・海の生物相などの環境変化は、黒潮蛇行などの影響が大きいと思われる。高水温化で、牡蠣、ホタテの養殖が打撃を受けている
・近年日本南部の魚である真鯛が捕れるようになって驚いている
・近隣の漁獲量は漁業者の減少もあって、減っている
・全国各地で行われている放流事業は、生息環境を良くする環境作りを同時に行わないと意味が無いと考える
・アマモの植付けも、元々の狙いであるCO2の固定ではあまり効果が無く、アマモ自体の定着も難しいと考える。ただし、生物多様性の確保では意味がある
・魚相の変化を客観的かつ比較的容易に捉えられる、環境DNAの採集・記録は大切

現理事長の畠山信さんは元鹿児島県の職員で南西諸島などで昆虫をはじめとする生物の調査・コンサルを長く担当され、平成24年(2012年)に気仙沼に戻られたそうです。行政職と漁業者、NPOの推進者と多面的な経験を積まれ、広くニュートラルな視野をお持ちです。フィールド作業の相方の萩原さんは、震災復興で気仙沼を訪れて、そのまま現地の環境活動に取り組むようになったそうです。1時間半のミーティングでは、伺いきれないほどの話題で盛り上がりました。
そのあとは、NPOの事務所から車で5分ほど走り車を停めて、汽水域に構築された沼を見学。いったん作られた川の護岸を計画的に壊して、魚介類が行き来できるようにしています。



そこから川筋を20分ほど歩いて、森づくりの現場を案内頂きました。川筋の奥深くまで洪水の傷跡があるのには驚かされました。現場は森林がパッと開けていて、ベース基地が作られています。10人近くの人が寝泊りできるように床と天井が張られ、炊事の設備もあり、ちょっとしたキャンプ場の趣です。フィールドカメラにはやって来た動物のほかにキノコや山菜採りで訪れて休む人の姿もあるそうです。基地づくりや植林整備の作業は環境条件を変化させないよう、重機を使わずに細心の注意を払って行動されていることをお聞きしました。
植林によってすぐに漁獲量が増えたり環境が良くなる成果を求めず、ストイックに環境の記録や改善活動に取り組む姿には驚きました。






ところで、視察の前日には、お昼に南三陸町のさんさん商店街に立ち寄って海の幸を頂きました。現地は、震災の際にテレビに良く映し出されていたところで、元々あった商店街は10㍍かさ上げされています。復興の道のりが大変であったことが、現地に足を踏み入れて少し分かったような気がします。



また、廃棄する魚やその部材(残渣)を活用してフィッシュミールを製造する気仙沼センター水産加工業協同組合を訪ね、代表理事の齋藤さんから詳しく事業の成り立ちと現状を伺いました。神戸など大半の地域では魚の残渣は有料廃棄物でしかありません。それを逆に有料で引き取り、乾燥、粉砕などの様々な処理を経て、農畜産業、魚介類養殖業の飼料やエサの原材料として売ることを事業にしておられます。組合は創立当初は加工業の100社が、現在でも事業を行っている36社が出資しているそうです。仕入先は、組合の企業のほか気仙沼内外の水産加工会社で、遠くは静岡県や岩手県の業者とも取引があるとのことです。2011年3月の震災・洪水で工場は全壊しましたが、地元の業者の要請で早くも翌年10月には事業再開にこぎ着けたそうです。資源の有効活用として、神戸でも近場の播磨灘、大阪湾の漁業者、生産者が協力して事業を進めて貰いたいものです。




気仙沼市魚市場では、震災語り部の元気仙沼市職員さんから震災発生時の生々しい様子や、洪水への備えのあり方を伺いました。気仙沼は大昔から何度も大地震・洪水に襲われています。そのため、災害に対する備えや訓練は他の地域と比べて充実していました。しかし、洪水が来たときにうまく避難できたのは、対象住民の数%にとどまったのだそうです。防潮堤や避難場所となる高くて頑丈な建物の確保はもちろんですが、地震発生後、洪水がやって来るまでの短時間に、いかに逃げて身を守るように伝えるのかが防災推進者側の依然として大きな課題です。海の上を漂う油によって街全体に火災が拡がったことや、「黒い」波が引いた後、海底から巻き上げられて街に押し寄せた汚泥による呼吸器系をはじめとする病気の蔓延の話がありました。阪神淡路大震災の神戸と似た災害発生後の状況を改めて思い起こしました。




今回の視察で、多彩な業種や立場の同行者のおかげもあり、改めて視野が広がり、福田川をはじめとする地域の自然環境再生・利活用を進めるヒントが得られました。忙しいところ時間をお取り頂きました視察先の皆さまにも感謝申し上げます。

0 件のコメント:

コメントを投稿